諜報機関としてのグーグル
- 2012/01/26
- 00:53
知らないうちに自分から個人情報を公開している危険性について
田中宇の国際ニュース解説 無料版 2012年1月25日 より抜粋
▼諜報機関としてのグーグル
米国家にとって、マスコミよりネット業界がすぐれている点は、コスト安だけでない(そもそも上記のコスト安は、国家にとってのコストの話でない)。旧システムは、マスコミという発信者から、国民という受信者への一方通行であり、国民がどう思っているかマスコミが知るルートが非常に細い(読者投稿やテレビ視聴率などしかない)。
対照的にネット業界は、ウェブの閲覧履歴やブックマークなどを業界のサーバーに送る機能によって、国民(や全世界の人々)が、どんな関心を持ち、何をどう考えているか、かなり詳細に分析できる。スマートフォンの電話帳や受送信メールをグーグルなどのサーバーに保存させることで、人々どうしの人間関係のつながりを盗み見できる。
こうした体制を、最も意図的に作っている感じがするのがグーグルだ。グーグルのGメール(グーグルアカウント)に新規登録する時、携帯電話番号の登録が必要だ(以前は必要なかった)。アンドロイドのスマートフォンを使っている人は、自動的に携帯番号とGメールのアカウントが連携され、ブラウザで何を見たか、どんなアプリをダウンロードしてどう使っているか、外出時にどこに行ったかなど、随時グーグルに報告が行く。これらの機能のうち、メニュー上のチェックを外すことで使えなくなるものもあるが、チェックを外したからといって情報をグーグルに取られていないと確信できる根拠もない。アップルもiフォンで似たようなことをしている。
http://www.guardian.co.uk/technology/2011/apr/22/iphone-android-location-based-services
iPhones and Android phones building vast databases for Google and Apple
Gメールアカウントを入力しないままアンドロイドのスマホを使うことも可能だが、マーケットからアプリをダウンロードできない。パソコンでネットから匿名でapkファイルを拾って、野良アプリとしてインストールすることも可能だが、そんな高度な作業をできるのはごく少数の人々だ(iフォンはそれもできない)。大多数の人々は、グーグルから推奨されるまま、個人情報や履歴の多くを無自覚のうちにグーグルに預ける。
個人情報を、他の個人や、国内の野暮ったい企業に教えることに対して神経過敏な現代人も、個人情報を全部グーグルに預けることを、最先端のおしゃれだと勘違いしている。スマートなのは、スマートフォンを買う側でなく、売る側だけだ。買う側は、スマートだと軽信させられている。Gメールは世界で3・5億のアカウントが登録されている。
グーグルは、世界の無数の個人情報を収集することで、米国にとって、新手の諜報機関として機能し始めている。これまでCIAなど既存の諜報機関は、世界各地に事態をウォッチする要員(スパイなど)を置き、世界的な政治経済・軍事社会などの動向を分析し、米国の覇権戦略に役立ててきた。こうした人的なウォッチは今後も必要だろうが、グーグルが世界中から集める膨大な個人情報は、それを越えるものだ。情報をうまく分析することで、これまで諜報機関が把握しにくかった、世界の人々の個々人の頭の中や心の動きがわかるからだ。
▼対米従属の日本はスマホ奨励が国策
Gメールは、一つのアカウントあたり7ギガバイトまで使え、ほぼ無尽蔵にメールや個人情報を蓄積できる。諜報分析者の側は、世界の人々が蓄積する個人情報が多いほど、いろいろな分析ができる。マーケティングのツールとしても使えるし、各国の政治的な分析結果をその国の親米的な政治家だけに教えることで、親米政党を選挙で連勝させ、ずっと与党にしておける。世界中の反米政治家の個人情報をあさってスキャンダルを探すこともできる。かつて、米英諜報機関が世界中のネットや衛星経由の通信を傍受して分析するシステムとして「エシュロン」が話題になったが、グーグルはエシュロンより効率的だ。エシュロンは情報を途中で傍受する必要があるが、グーグルは待っているだけで情報が蓄積されていく。
諜報機関は政府機関だが、グーグルは民間企業なので、全く別物だという反論もあるだろう。しかし、諜報機関の方からグーグルにすり寄ってきて、既存の政府傘下のプロパガンダ機能を使ってグーグルのイメージを向上させ、株価上昇を手伝ってあげるから、米国の国益や「テロ対策」のために協力してくれないかと誘われたら、企業として、株主と米国家の利益を考えた場合、協力した方が良いということになる。そもそも911以後の米国のテロ戦争の有事体制下では、米企業が集めた個人情報を、米当局がテロ対策の名目で検閲することが可能だ。
グーグルの約款には「Google では、アカウントに含まれる情報を Google
の他のサービスまたは第三者から取得した情報と統合し、ユーザーの利便性の向上および Google のサービスの品質向上のために使用する場合があります」と書いてある。それ以外のことに使わないのだから、グーグルは盗み見なんかしないはず、と考える人がいるかもれない。しかし「ユーザーの利便性の向上および Google のサービスの品質向上」の中に、米国のテロ戦争に沿った政府への情報提供が含まれていても不思議でない。個人情報をスマホのサーバーに預ける人々は、グーグルやアップルの「善意」を、何の根拠もなく信じるしかない。
日本の携帯電話番号にひもつけされた個人情報は、NTTドコモなど日本の電話会社が持っている。グーグルがGメール登録時に日本人に携帯番号を入力させても、それだけで個人の特定はできない。しかしこれも、911以降のテロ戦争の米国覇権の世界体制のもとでは、日本政府がドコモから個人情報を提出させ、日本政府が米政府に情報提供することが、テロ対策の名目で合法的にやれる。
(ドコモの副社長は最近、安全性の観点から、ドコモの利用者がGメールの
アカウントにログインせずにドコモのアンドロイドのスマートフォンを使えるようにすることを検討していると述べている。対米従属の日本の企業が、
米国の覇権を無視するこの手の行動を許されるものかどうか、今後の成り行きが注目される)
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/1201/02/news005.html
NTTドコモ 辻村副社長に聞く
ユーザーが入力したクレジットカード番号を他の個人情報とひもつけすることは、もっと簡単だ。カード会社はVISAもマスターカードもアメックスも米国企業であり、米当局は、米国内の法律や政策の範囲内でひもつけできる。クレジットカードはインターネットよりずっと前からあるが、世界中の個人情報を米国に集める情報覇権のあるという点で、構造上、グーグルなどネット業界と同じである。これらの方法で個人の特性(性別や年齢、住所など)と、グーグルやアップル、ヤフーなどが集めた、その人のネット上での知的活動や人間関係、購買行動などを関連づけることで、人類のかなりの部分の頭や心の動きを推測できる。
グーグルは、アップルよりも諜報機関的だ。アップルはパソコン時代から、伝統的にハードウェアの自社製造に固執してきた。グーグルは、サイトやウェブツールなど、ソフトウェアだけだ。OSはオープンソースで、ハードは日韓などの企業に作らせている。重視するのは集めてくる個人情報だけで、その他の部分を下請けに作らせているグーグルの方が、製造業的なアップルより、諜報機関に近い動きをしている。しかし、スティーブ・ジョブズが死んだ後、世界的な英雄に祭り上げられたプロパガンダ的な急上昇を見ると、アップルも諜報機関に入り込ませてあげる見返りとして、企業イメージと株価の向上を得ることにしたのかもしれないと感じる。
対照的に、ヤフーやマイクロソフトはイメージ的に落ち目の方向だ。これらの企業は、諜報機関との連携に消極的だったのかもしれない。もともとマイクロソフトのウインドウズは、インターネットが大々的に普及する前に確立したOSで、ウインドウズのパソコンは匿名性を維持したまま利用できる。アンドロイドがGメールのアカウント入力を前提とした「諜報機関万歳」的な新しいOSであるのと対照的に、ウインドウズは「諜報化以前」の昔の製品だ。いずれウインドウズのパソコンは、過去の遺物にされていくかもしれない。
とはいえ、グーグルはウインドウズ上でも本領を発揮している。クローム
(Chrome)というグーグルの新しいウェブブラウザは、立ち上げるとまず
Gメールアカウントの入力を促され、パソコン内の既存ブラウザから履歴と
ブックマークをコピーしてグーグルのサーバーに送り込んでいる。あとから
履歴の複製をやめさせることはできるものの、多くの人はそんなことに頓着
しない「スマートな現代人」だろう。ネット業界万歳である。
グーグルやアップルは、米国覇権の新しい一部分となっている。だから対米従属を国是とする日本で、ネットワークが国内で完結しているガラパゴス(進化停止動物の島)な携帯電話が時代遅れとみなされ、国民全員に「世界標準」のアンドロイドやiフォンのスマホを持たせる方向に事態が動くのは当然だ。ドコモやソフトバンクを批判する日本人は多いが「お上」の一部であるグーグルやアップルを悪く言う日本人は少ない。
同時に、米国の諜報機関に入り込まれると何をされるかわからない中国が、インターネットに設けた国家ファイアウォール(長城防火)によって、グーグルのサイトを拒絶したのも、当然の流れだ。長城防火が、イランなど、米国に潰されそうな他の反米諸国に輸出されるのもうなずける。世界の覇権構造は今や、サイバーなものになっている。
米国家にとって、マスコミよりネット業界がすぐれている点は、コスト安だけでない(そもそも上記のコスト安は、国家にとってのコストの話でない)。旧システムは、マスコミという発信者から、国民という受信者への一方通行であり、国民がどう思っているかマスコミが知るルートが非常に細い(読者投稿やテレビ視聴率などしかない)。
対照的にネット業界は、ウェブの閲覧履歴やブックマークなどを業界のサーバーに送る機能によって、国民(や全世界の人々)が、どんな関心を持ち、何をどう考えているか、かなり詳細に分析できる。スマートフォンの電話帳や受送信メールをグーグルなどのサーバーに保存させることで、人々どうしの人間関係のつながりを盗み見できる。
こうした体制を、最も意図的に作っている感じがするのがグーグルだ。グーグルのGメール(グーグルアカウント)に新規登録する時、携帯電話番号の登録が必要だ(以前は必要なかった)。アンドロイドのスマートフォンを使っている人は、自動的に携帯番号とGメールのアカウントが連携され、ブラウザで何を見たか、どんなアプリをダウンロードしてどう使っているか、外出時にどこに行ったかなど、随時グーグルに報告が行く。これらの機能のうち、メニュー上のチェックを外すことで使えなくなるものもあるが、チェックを外したからといって情報をグーグルに取られていないと確信できる根拠もない。アップルもiフォンで似たようなことをしている。
http://www.guardian.co.uk/technology/2011/apr/22/iphone-android-location-based-services
iPhones and Android phones building vast databases for Google and Apple
Gメールアカウントを入力しないままアンドロイドのスマホを使うことも可能だが、マーケットからアプリをダウンロードできない。パソコンでネットから匿名でapkファイルを拾って、野良アプリとしてインストールすることも可能だが、そんな高度な作業をできるのはごく少数の人々だ(iフォンはそれもできない)。大多数の人々は、グーグルから推奨されるまま、個人情報や履歴の多くを無自覚のうちにグーグルに預ける。
個人情報を、他の個人や、国内の野暮ったい企業に教えることに対して神経過敏な現代人も、個人情報を全部グーグルに預けることを、最先端のおしゃれだと勘違いしている。スマートなのは、スマートフォンを買う側でなく、売る側だけだ。買う側は、スマートだと軽信させられている。Gメールは世界で3・5億のアカウントが登録されている。
グーグルは、世界の無数の個人情報を収集することで、米国にとって、新手の諜報機関として機能し始めている。これまでCIAなど既存の諜報機関は、世界各地に事態をウォッチする要員(スパイなど)を置き、世界的な政治経済・軍事社会などの動向を分析し、米国の覇権戦略に役立ててきた。こうした人的なウォッチは今後も必要だろうが、グーグルが世界中から集める膨大な個人情報は、それを越えるものだ。情報をうまく分析することで、これまで諜報機関が把握しにくかった、世界の人々の個々人の頭の中や心の動きがわかるからだ。
▼対米従属の日本はスマホ奨励が国策
Gメールは、一つのアカウントあたり7ギガバイトまで使え、ほぼ無尽蔵にメールや個人情報を蓄積できる。諜報分析者の側は、世界の人々が蓄積する個人情報が多いほど、いろいろな分析ができる。マーケティングのツールとしても使えるし、各国の政治的な分析結果をその国の親米的な政治家だけに教えることで、親米政党を選挙で連勝させ、ずっと与党にしておける。世界中の反米政治家の個人情報をあさってスキャンダルを探すこともできる。かつて、米英諜報機関が世界中のネットや衛星経由の通信を傍受して分析するシステムとして「エシュロン」が話題になったが、グーグルはエシュロンより効率的だ。エシュロンは情報を途中で傍受する必要があるが、グーグルは待っているだけで情報が蓄積されていく。
諜報機関は政府機関だが、グーグルは民間企業なので、全く別物だという反論もあるだろう。しかし、諜報機関の方からグーグルにすり寄ってきて、既存の政府傘下のプロパガンダ機能を使ってグーグルのイメージを向上させ、株価上昇を手伝ってあげるから、米国の国益や「テロ対策」のために協力してくれないかと誘われたら、企業として、株主と米国家の利益を考えた場合、協力した方が良いということになる。そもそも911以後の米国のテロ戦争の有事体制下では、米企業が集めた個人情報を、米当局がテロ対策の名目で検閲することが可能だ。
グーグルの約款には「Google では、アカウントに含まれる情報を Google
の他のサービスまたは第三者から取得した情報と統合し、ユーザーの利便性の向上および Google のサービスの品質向上のために使用する場合があります」と書いてある。それ以外のことに使わないのだから、グーグルは盗み見なんかしないはず、と考える人がいるかもれない。しかし「ユーザーの利便性の向上および Google のサービスの品質向上」の中に、米国のテロ戦争に沿った政府への情報提供が含まれていても不思議でない。個人情報をスマホのサーバーに預ける人々は、グーグルやアップルの「善意」を、何の根拠もなく信じるしかない。
日本の携帯電話番号にひもつけされた個人情報は、NTTドコモなど日本の電話会社が持っている。グーグルがGメール登録時に日本人に携帯番号を入力させても、それだけで個人の特定はできない。しかしこれも、911以降のテロ戦争の米国覇権の世界体制のもとでは、日本政府がドコモから個人情報を提出させ、日本政府が米政府に情報提供することが、テロ対策の名目で合法的にやれる。
(ドコモの副社長は最近、安全性の観点から、ドコモの利用者がGメールの
アカウントにログインせずにドコモのアンドロイドのスマートフォンを使えるようにすることを検討していると述べている。対米従属の日本の企業が、
米国の覇権を無視するこの手の行動を許されるものかどうか、今後の成り行きが注目される)
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/1201/02/news005.html
NTTドコモ 辻村副社長に聞く
ユーザーが入力したクレジットカード番号を他の個人情報とひもつけすることは、もっと簡単だ。カード会社はVISAもマスターカードもアメックスも米国企業であり、米当局は、米国内の法律や政策の範囲内でひもつけできる。クレジットカードはインターネットよりずっと前からあるが、世界中の個人情報を米国に集める情報覇権のあるという点で、構造上、グーグルなどネット業界と同じである。これらの方法で個人の特性(性別や年齢、住所など)と、グーグルやアップル、ヤフーなどが集めた、その人のネット上での知的活動や人間関係、購買行動などを関連づけることで、人類のかなりの部分の頭や心の動きを推測できる。
グーグルは、アップルよりも諜報機関的だ。アップルはパソコン時代から、伝統的にハードウェアの自社製造に固執してきた。グーグルは、サイトやウェブツールなど、ソフトウェアだけだ。OSはオープンソースで、ハードは日韓などの企業に作らせている。重視するのは集めてくる個人情報だけで、その他の部分を下請けに作らせているグーグルの方が、製造業的なアップルより、諜報機関に近い動きをしている。しかし、スティーブ・ジョブズが死んだ後、世界的な英雄に祭り上げられたプロパガンダ的な急上昇を見ると、アップルも諜報機関に入り込ませてあげる見返りとして、企業イメージと株価の向上を得ることにしたのかもしれないと感じる。
対照的に、ヤフーやマイクロソフトはイメージ的に落ち目の方向だ。これらの企業は、諜報機関との連携に消極的だったのかもしれない。もともとマイクロソフトのウインドウズは、インターネットが大々的に普及する前に確立したOSで、ウインドウズのパソコンは匿名性を維持したまま利用できる。アンドロイドがGメールのアカウント入力を前提とした「諜報機関万歳」的な新しいOSであるのと対照的に、ウインドウズは「諜報化以前」の昔の製品だ。いずれウインドウズのパソコンは、過去の遺物にされていくかもしれない。
とはいえ、グーグルはウインドウズ上でも本領を発揮している。クローム
(Chrome)というグーグルの新しいウェブブラウザは、立ち上げるとまず
Gメールアカウントの入力を促され、パソコン内の既存ブラウザから履歴と
ブックマークをコピーしてグーグルのサーバーに送り込んでいる。あとから
履歴の複製をやめさせることはできるものの、多くの人はそんなことに頓着
しない「スマートな現代人」だろう。ネット業界万歳である。
グーグルやアップルは、米国覇権の新しい一部分となっている。だから対米従属を国是とする日本で、ネットワークが国内で完結しているガラパゴス(進化停止動物の島)な携帯電話が時代遅れとみなされ、国民全員に「世界標準」のアンドロイドやiフォンのスマホを持たせる方向に事態が動くのは当然だ。ドコモやソフトバンクを批判する日本人は多いが「お上」の一部であるグーグルやアップルを悪く言う日本人は少ない。
同時に、米国の諜報機関に入り込まれると何をされるかわからない中国が、インターネットに設けた国家ファイアウォール(長城防火)によって、グーグルのサイトを拒絶したのも、当然の流れだ。長城防火が、イランなど、米国に潰されそうな他の反米諸国に輸出されるのもうなずける。世界の覇権構造は今や、サイバーなものになっている。
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