妖精たちとの別れ
- 2012/04/17
- 22:52
引っ越しの荷造りに追われていた3月25日の午後2時、横浜の自宅で、私は久し振りにゆったりと、ガーデンチェアーに座ってみました。
放射能汚染の心配がなかった1年前までは、よくここでお茶を飲んだり、本を読んだり、編み物をして過ごしていたことを、懐かしく思い出しました。
思い返せば、この家を買った時、この庭は和風庭園でした。
庭に敷きつめられた玉砂利を取り払い、あちこちに配置された小岩をどけて、ホームセンターで買ってきた煉瓦を一枚一枚敷いて、花壇を作り、ガーデンテーブルやパラソルを置き、すっかり洋風の庭に変えてしまいましたが、庭を取り囲むように植えられた木々だけはそのまま大切に育ててきました。
新たに2本の桜の木も植えたのですが、16年の歳月が経つうちに、いつのまにかこの桜たちが、まるで庭の主のように立派な木へと育っていました。
3月25日、庭の真ん中に植えたさくらんぼの木は満開を迎えていました。
そして、この庭で一番日当たりの良い南側に陣取った染井吉野は、先輩たちをすっかり追い越し一番大きくなっていまいしたが、その高い枝のあちこちにちらほらと薄桃色の花をつけ始めていました。
もうこの庭ともお別れなんだな・・・。
色々な思い出がよみがえってきました。
雪が積もった庭で子供たちが楽しそうに雪だるまを作っていたこと。
夏の花火。バーベキュー。
友人たちとのガーデンパーティー。
一人静かに読書をした美しい初夏や秋の午後。
雨に濡れた紫陽花のあでやかだったこと。薔薇の華やかさ。沈丁花の春を告げる香り。ボタンの艶やかな姿。
金木犀の香り満つ季節、さくらんぼ狩りをした早朝。
いつだって、この庭は私と家族に新鮮な驚きと喜びをもたらしてくれました。
天界の夫との再会もこの庭でした。
かけがえのない時間を共に過ごしてきた庭と木々に深い感謝の思いを感じて、木々を見上げたその時、
私は驚くべき光景を目にしたのです。
この庭のそれぞれの木の枝に、一人ずつ妖精が現れ、私を見下ろしていたのです。
一人ひとり目が会うたびに、丁寧に会釈をして別れの挨拶をしてくれたのです。
「大切にしてくれてありがとう」
「いつも気にかけてくれてありがとう」
「遠くに行っても、幸せに暮らしてね」
「楽しかったよ」
「ありがとう」
「ありがとう」
「さようなら」
「お元気で」
みんな、とびきりの笑顔でした。
今までどうして彼らに気がつかなかったのでしょう。
妖精がいるだろうとは思っていました。
でも、猿すべりの木とさくらんぼの木だけしか気がつかなかったのです。
まさか、すべての木に、一人ずつ妖精がいただなんて!
そして、私は「いるだろう」とは思っても、本気で彼らの姿を見ようとしなかったことが悔やまれました。
「ごめんね」
「許してね」
「どうか、お願い、これからも幸せに暮らして」
「どうか、この庭がずっとこのまま残りますように」
もし、この庭がなくなるようなことがあったら、木が倒されるようなことがあったら、放射能の汚染の影響は?
そう思うと、私は不安にかられました。
その時、
彼らのリーダーと思われる妖精が答えてくれました。
「私たちのことは大丈夫だから、何も心配しないで」
みんなも、そうだよって口ぐちに言ってくれました。
「楽しかった?」私は涙ぐみながら、彼らに尋ねました。
「うん、とっても楽しかったよ」
みんなも、うん、うんって笑顔でうなづいてくれました。
「そう、それならよかった。本当によかった」
私も笑顔で彼らに答えました。
「最後に会えて、本当によかった。」
妖精たちがいた、庭の木々を一つ一つ紹介します。
妖精たちの姿が見えていたときに撮ったものです。(写真には写っていませんが)
玄関に近いところから、ぐるっと反時計まわりに写真を撮りました。
性別はもしかしたら記憶違いをしているところもあるかもしれません。
その時、メモをしなかったので、記憶だけが頼りです。
一番玄関に近いところにある山茶花。女の子でした。
葉をすっかり落した姿の花水木。2番目のリーダーの、帽子が似合う男の子でした。
金木犀の大木。本当に驚いたのですが、この木に住んでいる
女の子がこの庭のリーダーの妖精でした。一番大人っぽくしっかり者の美人でした。
紅葉の木。この木もちょっと意外で、女の子でした。
隣に寄り添うように立つさくらんぼの木。
この木はお茶目な女の子でした。となりのさるすべり君と仲良しのようでした。
これは同じ日の一時間後の午後3時。
空がすっかり晴れたので、さくらんぼの花を撮りました。
引っ越しの日まで、ずっと満開の美しい姿で、私たち家族を送り出してくれたのです。
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